「鴉」 三好達治 靜かな村の街道を筧が横に越えてゐるそれに一羽の鴉がとまつて木洩れ陽の中に空を仰ぎ 地を眺め私がその下を通るときある微妙な均衡の上に翼を戢めて 秤のやうに搖れてゐた(『南窗集』椎の木社/1932年)鴉(からす)は冬の季語。鳶と鴉はライバルで、 ...
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三好達治『鳥の歌』の中の「鳶なく」のこと
「鳶なく」 三好達治日暮におそく時雨うつ窓はや暗きに何のこころか半霄に鳶啼くその聲するどくしはがれ三度かなしげに啼きて盤桓す波浪いよいよ聲たかく一日すでに暮れたりああ地上は安息のかげふかく昏きにひとり羽うち叫ぶこゑわが屋上を遠く飛び去るを聽く(『故郷 ...
三好達治『鳥の歌』の中の「夏の祭」のこと
曲集も中盤、三曲目。「夏の祭」 三好達治 夏の祭りの海の上祭の樂は雲の間に天使たちがそそくさとしだらに脱いだ白い沓鷗の群れはむきむきに沖べの巖に動かない彼らの仲間も陽に醉つてしばしは天上の夢を見る夏の祭りの海の上祭の樂は雲の間に(『砂の砦』臼井書房/19 ...
三好達治『鳥の歌』の中の「百舌」のこと
「百舌(もず)」 三好達治槻(つき)の梢に ひとつ時默つてゐた分別顏な春の百舌曇り空を高だかとやがて斜めに川を越えた紺屋の前の榛(はん)の木へ……ああその今の私に欲しいのは小鳥の愛らしい 一つの決心(『閒花集』四季社、1934年)百舌は秋の季語。秋は別れの ...
三好達治『鳥の歌』の中の「鶯」のこと
「鶯(うぐいす)」 三好達治「籠の中にも季節は移る 私は歌ふ 私は歌ふ 私は憐れな楚囚(そしう) この虜はれが 私の歌をこんなにも美しいものにする 私は歌ふ 私は歌ふ やがて私の心を費ひ果して 私の歌も終るだらう 私は眼を瞑る 翼を ...
『熟成期間』という名の本ブログ更新停止期間に入ります。
いよいよ男声合唱団タダタケを歌う会コンサート「第伍」が10/15(土)に迫ってきた。本番までの約20日間、練習に打ち込み、歌に身をゆだねるために「熟成期間」という名の本ブログ更新停止期間に突入し、ブログ更新の誘惑を絶ちます。ちなみに酒は断ちません(笑)。【 ...
三好達治『追憶の窓』の中の「村」のこと
譜面は買えてもなかなか演奏を耳にする機会がない多田武彦の組曲がある。『追憶の窓』である。1曲目「村」。2曲目「村」。妻「どっちよ。」打ち間違いではないのである。三好達治詩集でも「村」「春」「村」と連続して掲載されている。今回はその2つめ(組曲でも2曲目)の「 ...
三好達治と立原道造の見えていた世界
まずは達治。「郷愁」 三好達治 蝶のやうな私の郷愁!……。蝶はいくつか籬(まがき)を越え、午後の街角に海を見る……。私は壁に海を聽く……。私は本を閉ぢる。私は壁に凭れる。隣りの部屋で二時が打つ。「海、遠い海よ! と私は紙にしたためる。――海よ、僕ら ...
三好達治『鳥の歌』の中の「揚げ雲雀」のこと
「揚げ雲雀」 三好達治雲雀の井戸は天にある……あれあれあんなに雲雀はいそいそと水を汲みに舞ひ上る杳かに澄んだ靑空のあちらこちらにおきき井戸の樞(くるる)がなつてゐる『閒花集』四季社/1934年一点鐘。詩集『閒花集』は1934年7月に刊行。莫逆の友梶井基 ...
三好達治『わがふるき日のうた』の中の「雪はふる」のこと
いちど本ブログでも書いていますが別の切り口で。「そうか、きみはただただただたけだけだっけ?その弐」 本ブログを書くきっかけとなった多田武彦『わがふるき日のうた』の終曲。「雪はふる」 三好達治海にもゆかな野にゆかなかへるべもなき身となりぬすぎこし方なかへ ...
こりない男の「三好達治記念館」来訪記
いよいよである。またまたいよいよの登場である。所用があって関西方面にでかける用事ができたのである。しかも家族でUSJ。娘の卒業旅行積み立ては夫1娘1の2人分だったが急きょ妻も参加できることになり「サンライズ出雲」は即刻却下され。3人が楽しめる行き先になった ...
三好達治『追憶の窓』の中の「毀(こは)れた窓」のこと
「視線」よりも「まなざし」という言葉が好きだ。十代は混声合唱組曲『季節へのまなざし』に出逢い、夢中になった。二十代は男声合唱組曲『やさしい魚』に出逢い、夢中になった。特に三曲目「天使」。♪まなざしだけがみえるめのかたちでなく~。のうた。♭7つのCes-Durとい ...
言葉はテキストを越えるか
①「愛、深き淵より ―筆をくわえて綴った生命の記録―」星野富弘/立風書房/1981年1月 ②「風の旅」星野富弘/立風書房/1982年1月 実家にあって昔読んだ①。両親が大好きで大事にとってあった。学生の頃、かの有名な男声合唱組曲「花に寄せて」を歌う際に、購入し今も大事に ...
晩年の達治、世田谷での一人暮らしで見た風景とは
鎌倉文学館の朔太郎展「マボロシヲミルヒト」を堪能してから、新宿までの所用まで4時間余り。さて、どうしたものか。自然と足は(電車は)世田谷に向かっていた。朔太郎が1933年に移り住んだ世田谷区代田。鉄塔の近くに自らの設計による家を建て、住んでいたという。都会の空 ...
三好達治『追憶の窓』の中の「昨日はどこにもありません」の補足
三好達治は京都にあった第三高等学校時代にニーチェ、ショーペンハウエルツルゲーネフを読み、萩原朔太郎「月に吠える」に傾倒してからは、室生犀星、堀口大學も読んだとのこと。傾倒すればおのずとその詩作に影響がでるのも当然のこと。室生犀星「春の寺」の本歌取り三好達 ...
三好達治『海に寄せる歌』の中の「砂上」のこと
我が家では、まだまだ回文が流行っている。小学生相手の言葉遊びには有効かなと思っているので、よしとしたい。今日は休日出勤の振り替えで仕事が休みだから仕事のことを忘れてぱーっと男声合唱を聴こうか。父「言うほどに、敵があがきて 二度包囲。」父「血眼な街。」父 ...
三好達治『わがふるき日のうた』の音源のこと
上野の東京文化会館4F音楽資料室に通い詰めてはや1年あまり。http://www.t-bunka.jp/library/ そこにしげしげとかよいつめるおっさんがおる。男声合唱(9割が多田武彦)のCDとLPをむさぼるように視聴するあやしいおっさん。しかも視聴し終わったら、兎のような真っ赤な眼を ...
三好達治『わがふるき日のうた』の中の「甃のうへ」の補足
本ブログの別の記事で、書いたことの補足。 室生犀星の『青き魚を釣る人』の「春の寺」(1923年/)の意識的な「本歌取り」だと 指摘したのは大岡信と書いた。「本歌取り」についは学研全訳古語辞典、などを引いてみると「本歌取り」和歌・連歌(れんが)の表現技法の一つ。 ...
三好達治『達治と聲濤(とうせい)』の中の「荒天薄暮」 のこと
昨年の話で恐縮だが、2015年6月28日(日)於 すみだトリフォニーホール第64回東西四大学合唱演奏会を家族3人で鑑賞した。私自身も久しぶりの四連の鑑賞であった。各団の人数も持ち直し、安定多数(?)になり、それぞれが素晴らしいステージであった。そして、メインの合同 ...
三好達治『追憶の窓』の中の「昨日はどこにもありません」のこと
また帰ってくる。達治に帰ってくる。多田武彦<公認サイト>よりhttp://www.ric.hi-ho.ne.jp/neo-rkato/yaro/20140208tadatake_ryakureki.html 多田武彦は、映画監督を目指していたことも周知の事実である。だからだろうか多田武彦の作品には、映像のイメージが浮かんでくる ...
三好達治『追憶の窓』の中の「雨後」のこと
アンコールピースとして登山家の愛好歌としてこよなく愛されるこの曲について。「雨後」 三好達治一つ また一つ雲は山を離れ夕暮れの空に浮かぶ雨の後山は新緑の襟を正し膝を交えて並んでゐる峡の奥 杉の林に発電所の燈がともるさうして後ろを顧みれば雲の切れ目に 鹿島槍 ...
三好達治『海に寄せる歌』の中の「ある橋上にて」のこと
最後、バーン!と大団円で終わる大迫力の曲集ももちろん大好き。また、しみじみと幕をとじる曲集ももちろん大好き。『海に寄せる歌』の終曲。様々な海の風景、物語が6曲れた展開されたあと、穏やかな海の風景がひろがる。「ある橋上にて」 三好達治 十日くもりてひと日 ...
幕間その壱 「娘の国語の教科書」の段
読み疲れた時に、 ほっと一息の時間。 我が家には 小5になる一人娘がいる。 趣味は読書と 多田武彦8割 バーバーショップハーモニー2割 での男声合唱鑑賞。 父「なんか趣味のバランスが よろしくないな。 誰のせいや?」 妻「あんたのせいや!」 娘「まあまあ ...
三好達治『わがふるき日のうた』の中の「甃のうへ」のこと
多田武彦作曲「わがふるき日のうた」の中の詩。三好達治の詩の中でももっとも有名なもののひとつで高校の国語の教科書にも頻出の詩、第1曲目「甃(いし)のうへ」にまつわる7つのポイント。(大学受験には出そうもないですが。)「甃のうへ」 三好達治あはれ花びらな ...
三好達治『追憶の窓』のこと
多田武彦が三好達治の詩にいきなり「ガッと」取り組んでほぼ同時期に書き上げた3つの組曲がある。『わがふるき日のうた』『海に寄せる歌』『追憶の窓』である。どれも素晴らしい出来なのだが、『追憶の窓』については、3曲目の「雨後」はアンコールピースとして有名であるも ...
不惑を前に、未だ羽ばたけぬ三好達治の焦燥と決意表明
「枕上口占」 三好達治私の詩は一つの着手であればいい私の家は毀れやすい家でいいひと日ひと日に 失はれるああこの旅の つれづれの私の詩は三日の間もてばいい昨日と今日と明日(あす)とただその片見であればいい(『艸千里』1939年7月)達治が小田原に転居したのは、 ...
同じモチーフに見る津村信夫と三好達治の個性
多田武彦の作曲した『父のいる庭』(詩:津村信夫)『海に寄せる歌』(詩:三好達治)にも、娘が生まれた感慨を詠んだ詩がそれぞれ入っています。「早春」 津村信夫淺い春が好きだつた──死んだ父の口癖のそんな季節の訪れが私に近頃では早く來るひと月ばかり早く來る藪 ...
同じモチーフに見る中原中也と三好達治の個性
三好達治「わがふるき日のうた」に登場する「木兎(みみずく)」。同じモチーフながら詩人の個性がでる印象的な2つの詩を味わいました。「木兎」 三好達治木兎が鳴いてゐるああまた木兎が鳴いてゐる古い歌聽き慣れた昔の歌お前の歌を聽くために私は都にかへつてきたの ...
そうか、きみはただただただたけだけだったっけ?その弐。三好達治『わがふるき日のうた』のこと
そうか、君は只々タダタケだけだったっけ?その壱のつづき。 ●できれば、演奏の際にはここで少しでも「間」をあけてほしいですね。ハンカチで汗をぬぐうだけで、涙を拭いたと同じ効果があると思いませんか。聴衆も張りつめた息をはく「間」になりますね。「雪はふる」 ...
そうか、きみはただただただたけだけだったっけ?その壱。三好達治『わがふるき日のうた』のこと
そうか、君は只々タダタケだけだったっけ?僕の男声合唱人生の中で、胸を打つ物語が、歌詞として取り上げられた近代詩の中にある。うたをうたうことの原点となるこれらのものは、つたなき僕の人生の中で、何度も僕の人生を救った。そしてこれからも救うだろう。今回Kさんとい ...