カテゴリ: 記事(詩人)

多田武彦が作曲した詩人たちの中で早くに頭角を現し、他の詩人たちの覚醒を促したのが堀口大學(1892年-1981年)である。90年近く生きた彼の生涯は、沢山の詩の友を見送ってきた生涯でもあった。多田武彦が作曲した詩人たちをざっくり知るために 堀口大學が1971年に筑摩書房 ...

突然であるが、色々あって公私ともに身動きがとれない日々が続いている。タダタケを歌いたいがそれもままならず。仕方がないので、こんなコンサートがあったらいいな、という妄想で我慢することにする。独断と偏見による選曲なので、広い心でお読みいただければ幸いである。 ...

組曲の3曲目「早春」の記事からだいぶ間があいてしまったが津村信夫『父のいる庭』の中の「早春のこと」 さて、終曲である。筆者にとっては、思い出深いこの曲。1998年に『三崎のうた・第二』をとある東京の男声合唱団で歌ってから、しばらく多田武彦の曲から遠ざかっていた ...

先日、久しぶりに信州の山を間近にみたせいか、多田武彦のこの曲を久しぶりに聴きたくなった。「雨後」  三好達治一つ また一つ雲は山を離れ夕暮れの空に浮かぶ雨の後山は新緑の襟を正し膝を交えて並んでゐる峡の奥 杉の林に発電所の燈がともるさうして後ろを顧みれば雲の ...

前記事の補足として。立原道造『優しき歌』の中の「また落葉林で」のことその弐 この旅の思いがけない出会いに、油屋内の古書店で偶然見つけた一冊の雑誌がある。『本 第1巻第5号No.15』(麦書房/1964年)。特集はずばり「三好達治追悼」である。周りを見渡すと、この本に興 ...

諸般の事情により、拙ブログを無期限休止すると宣言してからはや半月。満を持して戻ってまいりました。といっても、不定期連載のペースは変わりませんが。読者の皆様には、引き続きのご贔屓を心よりお願い致します。さて、先日11年ぶりに大変お世話になった昔の職場の上司に ...

諸般の事情により、拙ブログを無期限休止いたします。読者の皆様には、ながらくのご愛顧誠にありがとうございました。もし環境が許せば、また書き続ける日がくると信じております。最後に、筆者の座右の銘(詩)を2つ。恐らく多田武彦の曲にはなっていないとおもわれますが ...

「あらせいとう」   北原白秋人知れず袖に涙のかかるとき、かかるとき、ついぞ見馴れぬよその子があらせいとうのたねを取る。丁度誰かの為るやうにひとり泣いてはたねを取る。あかあかと空に夕日の消ゆるとき、植物園に消ゆるとき。(『東京景物詩及其他』/東雲堂書店/1913 ...

山口県山口市阿東地区の名勝である。NPO法人あとう観光協会HPに、詳しい情報がある。http://www.ato-kankou.org/View/Choumonkyo/この詩の詩碑がたっているようだ。1936年11月。最愛の長男文也2歳にて病没。30歳で夭折した中也の人生で7人目の親族との死別体験。「冬の長門峡 ...

最近、お疲れモードのせいかしみじみとした詩を身体が求めている気がする(笑)さて、組曲『叙情小曲集』の終曲である。「信濃」 (編がさやちらと見しもの雪のひま)   室生犀星雪といふものは物語めいてふりこなになりわたになり 哀しいみぞれになりたえだえにふり  ...

拙ブログの別の記事で、「本歌取り」という視点から室生犀星「春の寺」と三好達治「甃のうへ」について随分前に書いた。三好達治『わがふるき日のうた』の中の「甃のうへ」の補足 今回は、その室生犀星「春の寺」の話。「春の寺」   室生犀星うつくしきみ寺なりみ寺にさく ...

読み疲れた時に、ほっと一息の時間。筆者も、一時のスランプを脱してやっと多田武彦のCDが再び聴けるようになってきた。毎週出張続きで、実際に歌う時間は捻出できませんが。涙。さて、多田武彦食わず嫌い王決定戦があるとすれば(そんなものありはせぬが)「●●第二」もの ...

筆者は、只今絶賛沈没中である。あれほど好きだったタダタケが、まったく身体に入ってこないのである。まったくスランプである。しかし、昔の仲間が演奏会を開催する、しかも、大好きな「わがふる」をやるのである。万難を排して駆けつけようと思っているのである。HPはこち ...

「早春」  津村信夫   淺い春が好きだつた──死んだ父の口癖のそんな季節の訪れが私に近頃では早く來るひと月ばかり早く來る藪蔭から椿の蕾がさし覗く私の膝に女の赤兒爐の火がとろとろ燃えてゐる山には雪がまだ消えない椿を剪つて花瓶にさす生暖かな――あゝこれが「 ...

毎度お世話になっております多田武彦〔タダタケ〕データベース のHPによると、男声合唱組曲『父のいる庭』の2曲目「太郎」は、津村信夫が子どもを授かった時の詩だが、生まれた子は女児だったという背景があったとのこと。この組曲は、家族に関する胸がほっこりとするエピソ ...

先週から始まった怒涛の北海道出張まつりも三往復目。オホーツク海沿岸の稚内よりのとある街のホテルで闇に寝しづまっている家々を眺めながらこのブログを書いている。妻「遠征で疲れてんだから、早よ寝んか!」娘「インフルB型にかかってしんどいよ~。」父「・・・空耳ア● ...

演奏会も無事終了し、ほっとひと息。昨年9月から住み始めた新しい街で、忘れていたわ、本屋巡りの旅。それも古書店がイイ。妻とぶらぶら歩き中に、突然、街中のメインストリートに古き良き古書店が出現。夫「なにかあるぞ。」妻「見て、壁一面に北原白秋全集があるぞ。」夫「 ...

「渡り鳥」   北原白秋あの影は渡り鳥、あの耀きは雪、遠ければ遠いほど空は青うて、高ければ高いほど脈立つ山よ、ああ、乗鞍嶽、あの影は渡り鳥。(『水墨集』/アルス/1923年)先日のタダタケをうたう会の演奏会でのタダタケ・ア・ラカルトステージで演奏する機会に恵ま ...

「海は、お天気の日には」   中原中也海は、お天気の日には 海は、お天気の日には、綺麗だ。海は、お天気の日には、金や銀だ。それなのに、雨の降る日は、海は、怖い。海は、雨の降る日は、呑まれるやうに、怖い。ああ私の心にも雨の日と、お天気の日と、その両方がある ...

「冬の明け方」   中原中也殘んの雪が瓦に少なく固く枯木の小枝が鹿のやうに睡い、冬の朝の六時私の頭も睡い。烏が啼いて通る――庭の地面も鹿のやうに睡い。――林が逃げた農家が逃げた、空は悲しい衰弱。   私の心は悲しい……やがて薄日が射し青空が開く。上の上の ...

「水路」   北原白秋 ほうつほうつと蛍が飛ぶ……しとやかな柳河の水路を、定紋つけた古い提灯が、ぼんやりと、その舟の芝居もどりの家族を眠らす。ほうつほうつと蛍が飛ぶ……あるかない月の夜に鳴く虫のこゑ、向ひあつた白壁の薄あかりに、何かしら燐のやうなおそれが ...

1月21日(日)に迫っている当団のコンサート。年末に敢行した自宅単独音確認合宿のおかげで、一筋の光がみえてきた気がする。演奏する2つの組曲のうちの多田武彦作曲『優しき歌』は全5曲。どれもみなわが胸をうつ音楽に溢れている。・・・しかし、まだ詩が肌感覚で腹に落ち ...

2017年もいよいよ大詰めである。「寒い夜の自画像」   中原中也きらびやかでもないけれどこの一本の手綱をはなさずこの陰暗の地域を過ぎる!その志明らかなれば冬の夜を我は嘆かず人々の焦燥のみの愁しみや憧れに引き廻される女等の鼻唄をわが瑣細なる罰と感じそが、わが ...

『ソネット集』については拙ブログでも取り上げたことがあります。男声合唱団タダタケを歌う会のコンサート「第伍」のこと 多田武彦の立原道造『ソネット集』を男声合唱団タダタケを歌う会で髙坂先生の情熱溢れる棒で歌うという僥倖に恵まれたので、続きの『ソネット集・第二 ...

多田武彦作曲の伊藤整(『雪明りの路』/椎の木社/1926年)の詩集による『雪明りの路』は名組曲の誉れ高いといっても過言ではないだろう。多田武彦の詩の選球眼(選詩眼?)の素晴らしさにはただただ感服するしかないが(下記拙ブログのリンク参照)。多田武彦が作曲した詩人 ...

「かへる日もなき」   三好達治かへる日もなきいにしへをこはつゆ艸の花のいろはるかなるものみな青し海の青はた空の青(『花筐』青磁社/1944年)多田武彦作曲『わがふるき日のうた』の中の終曲「雪はふる」の2年前の風景。「雪はふる」   三好達治海にもゆかな野にゆ ...

立原道造『優しき歌』の曲集で取り上げるいよいよ最後の1曲である。「落葉林で」   立原道造 あのやうにあの雲が 赤く光のなかで死に絶へて行つた私は 身を凭せているおまへは だまつて 脊を向けてゐるごらん かへりおくれた鳥が一羽 低く飛んでゐる私らに 一日が ...

「さびしき野辺」   立原道造いま だれかが 私に花の名を ささやいて行つた私の耳に 風が それを告げた追憶の日のやうにいま だれかが しづかに身をおこす 私のそばにもつれ飛ぶ ちひさい蝶らに手をさしのべるやうにああ しかし となぜ私は いふのだらうその ...

父「この曲集は  1曲目『村』、2曲目『村』と  同じ題名の詩が続くんだよ、  面白いねえ、三好達治は。」妻「で、今回はどっちよ。」1曲目の『村』である。2曲目の『村』については拙ブログで取り上げたことがある。三好達治『追憶の窓』の中の「村」のこと (再掲)19 ...

「志おとろへし日は」   三好達治こころざしおとろへし日はいかにせましな手にふるき筆をとりもちあたらしき紙をくりのべとほき日のうたのひとふし情感のうせしなきがらしたためつかつは誦しつかかる日の日のくるるまでこころざしおとろへし日はいかにせましな冬の日の黄 ...

絶望の叫喚に叫ぶとき、 私の悩みは誰も知るまいと白い月にほほえんでみたくなるとき、遠き遠き漏電と夜の絶叫。など人生、へこんでいるときは頭の中でテクストが大混乱のワルツを踊ってゐる。 だからこそ時には己のルーツに立ち戻りたくなる、そんな瞬間が誰しもあるので ...

「みまかれる美しきひとに」   立原道造まなかひに幾たびか立ちもとほつたかげはうつし世に まぼろしとなつて忘れられた見知らぬ土地に 林檎の花のにほふ頃見おぼえのない とほい星夜の星空の下で、その空に夏と春の交代が慌しくはなかつたか。――嘗てあなたのほほゑ ...

筆者は、北方民族大移動を無事に終えて、絶賛荷物整理中である。さて、まずは新しい土地の情報を入手しに図書館へGO!妻「まだ、家の中が全然  片付いておらんぞ!」新しい図書館はやはり興奮するのである。そしてまた、新たな出会いが。日本最大の図書館検索「カーリル ...

知人の出演するコンサートで三好達治『達治と濤聲』を鑑賞する機会を得た。筆者は初演を生で聴いて感動したものの一人であったが。==================第64回東西四大学合唱連盟合唱演奏会於 すみだトリフォニーホール)合同ステージ(指揮:山脇卓也氏) ...

「また落葉林で」   立原道造いつの間に もう秋! 昨日は夏だつた……おだやかな陽氣な陽ざしが 林のなかに ざわめいてゐるひとところ 草の葉のゆれるあたりにおまへが私のところからかえつて行つたときにあのあたりには うすい紫の花が咲いていたそしていま おま ...

ふと手に取った詩専門の雑誌がある。『現代詩手帖』2014年10月号。偶然目に留まったのが特集「立原道造-生誕百年」である。最近、多田武彦&立原道造に縁があるなあと。その中で特に印象に残ったのがこの「立原道造の詩と空間」小池昌代氏の文章である。要点は次の通り。● ...

三好達治についての本を探していたら、次の本にたどり着いた。『三好達治』(1979年/筑摩書房)正確に言うとこういう本がある、という情報でしたが(笑)今まで数々のお世話になっている日本最大の図書館検索カーリル でさえも検索不可能とは、どんだけか~!と半ばあきらめ ...

妻「おーい、この汚い段ボール、     押入れの中にあったけど、     処分するぞー!」夫「ちょっと待った!!何かあるぞ。」拙ブログの記事伊藤整『雪明りの路』にまつわる風景のこと を執筆した際に、もう失くしたと思ってあきらめていた写真群が我が家の押入れから  ...

1999年12月末。世の中がY2K問題で異様に盛り上がっていたあの季節。1994年10月に男声合唱の初ステージで多田武彦『雪明りの路』を歌う機会に恵まれ、すっかりこの詩人と作曲家にハマってしまった筆者。演奏会には間に合わなかったが、ひそかに、冬の小樽近辺を歩いてやろうと ...

新年です。本ブログ執筆を本格的に再開して初めての初春。新年早々恐れ多くも多田武彦作曲北原白秋『雪と花火』より終曲「花火」である。「花火」   北原白秋 花火があがる、銀と緑の孔雀玉……パツとしだれてちりかかる。紺青の夜の薄あかり、ほんにゆかしい歌麿の舟の ...

さて、若き詩人立原道造である。組曲1曲目の「爽やかな五月に」。筆者は高校、大学と混声でのびのびと育まれたので(笑)どうしても小林秀雄の曲を思い出してしまうが。ここでの話題は男声合唱の多田武彦版でよろしくお願いします。勿論どちらも、それぞれの良さがありどちら ...

読み疲れた時に、ほっと一息の時間。我が娘の小学校生活も残り3か月となった。親としては、感慨深いものがある。幸いにもまだ良好なコミュニケーションがとれている。タダタケつながりで。ある日の風景その1。父娘2人で、お昼をどこで食べるか相談中。父「じゃあ、そばでも ...

「紺屋のおろく」    北原白秋 にくいあん畜生は紺屋のおろく、猫を擁えて夕日の浜を知らぬ顏して、しやなしやなと。にくいあん畜生は筑前しぼり、華奢な指さき濃青に染めて、金の指輪もちらちらと。にくいあん畜生が薄情な眼つき、黒の前掛、毛繻子か、セルか、博多帯 ...

おお、つひに私もこの歌と交わるときが来たのだ。まだ筆者が青年時代、この組曲の演奏を当時のガールフレンドと座って眺めてゐたつけが・・・。今は死語か、「タダタケデデート」(笑)その彼女も多田武彦が大好きだったのよ。もう時効だから、許して、と。妻「フォローにな ...

冬も本格的になってきた冬が似合う詩人というか冬に味わいたい詩人といえばやはり中原中也か。人生の曲り角、お肌の曲がり角には叫びだしたくなる夜があるノオ、ノオ、ノオ・・・と少し福永武彦のようになってしまったが、私の人生に座る椅子なんてないのだ。中原中也の詩を ...

久しぶりである。伊藤整『雪明りの路』である。どうやら3回目の全曲演奏の機会に恵まれそうである。筆者が初めて本格的な男声合唱の組曲に取り組んだのは『雪明りの路』である。以下、拙ブログの記事。男声合唱そして多田武彦作品との初めての邂逅 歌詞は大人の事情により、 ...

『万葉の人びと』犬養孝(新潮文庫/1981年)誰もが知っている万葉集の歌についてわかりやすく、解説したNHKの放送の原稿をもとにした本。おお、そんな風景や情が隠れていたのか。と目から鱗の本であった。で、再度まっさらな気持ちでよみなおしてみる。「雪はふる」    ...

「雲の祭日」   立原道造羊の雲の過ぎるとき蒸氣の雲が飛ぶ毎に空よ おまえの散らすのは白い しイろい絮(わた)の列 帆の雲とオルガンの雲 椅子の雲きえぎえに浮いてゐるのは刷毛の雲空の雲……雲の空よ 青空よひねもすしイろい波の群 ささへもなしに 薔薇紅色に ...

「閑寂(かんじゃく)」   中原中也なんにも訪ふことのない、私の心は閑寂だ。 それは日曜日の渡り廊下、 ――みんなは野原へ行つちやつた。板は冷たい光澤をもち、小鳥は庭で啼いてゐる。 締めの足りない水道の、 蛇口の滴は、つと光り!土は薔薇色、空には雲雀空は ...

【その1】組曲第Ⅱ曲。「湖水」   三好達治この湖水で人が死んだのだそれであんなにたくさん舟が出てゐるのだ葦と藻草の どこに死骸はかくれてしまつたのかそれを見出した合圖の笛はまだ鳴らない風が吹いて 水を切る艪の音櫂の音風が吹いて 草の根や蟹の匂ひがするああ ...

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