暦の上ではオクトーバー。
秋といったら、やっぱり読書がいちばん。
(柚木麻子/新潮社/2015年)
文学新人賞を元・人気アイドルと同時受賞したため、
ほとんど注目されずデビューの機会も巡ってこない
不遇な新人作家・中島加代子さんが主人公の物語です。
物語は、まさに「文壇下剋上エンタテイメント」です。
もう創作意欲はとっくに枯れてしまっているのに
文壇でのさばっている大御所・東十条氏らと闘い、
時には大学時代の先輩の出版社の編集者などを
仲間に巻き込んでいくさまが圧巻です。
また、才能はあってもチャンスに恵まれないなか、
己の野心で焼き焦がれそうになりながらも、
それをばねにして作家の階段を登っていく姿も胸を打ちます。
きれいごとだけでは成功できない。
でもきれいごと、かっこ悪くても一生懸命生きることを
理解していなければ、人間として作家としてだめになってしまう。
創作する苦しみや嬉しさ、
カタルシスなどの価値観や「情報の送り手」の苦労を、
大量消費社会に生きる私たちは忘れがちになっていないだろうか、
ということを世の中に問い続けているように感じる小説です。
ちなみに、原作が発表されてからだいぶたちましたが、
2024年に映画化もされました。
主演ののんさんの公式HPはこちら。
のんさんによる「作家の狂気」の怪演、
大御所作家東十条氏を演じた滝藤賢一さんの
「成功後に創作意欲を失った作家の諦観とそこからの復活劇」
の演技が特に印象に残りました。
作者の柚木麻子さんは、
世の中のフリーライダー的な価値観への冷めた視線や、
もがき苦しみながら奮闘する人たちへの厳しくも温かいエールが印象的です。
読み終えるたびに、
思わず姿勢を正して座りなおす気持ちにさせる本です。
どんなに疲れていても
どんなに落ち込んでいても
読書だけはできる。
ようし、どんどん読んでいこう。
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