多田武彦が作曲した詩人たちの中で
早くに頭角を現し、
他の詩人たちの覚醒を促したのが
堀口大學(1892年-1981年)である。

90年近く生きた彼の生涯は、
沢山の詩の友を
見送ってきた生涯でもあった。


堀口大學が1971年に筑摩書房から発刊した
「月かげの虹」という詩集がある。
その中に、彼が詩の友を見送ったことに
起因する詩が収められている。
この中から印象的な2詩を引用して
紹介してみたい。
「達治詩人百朝忌に」
   堀口大學

君の死に会って人たちはあわてている
愚かな人たちよ
詩人は死なないのだよ
  (中略)
誰が不死鳥の死を愚かに泣くか
涙はそそぐな 酒で洗おう
君の墓の上でわれら輪になって踊ろう
君の創世記が今日始る
君の不死の命が今日始る

「詩の友」
   堀口大學

詩の友は死んでしまった
相ついで つぎつぎに
みんなみんな
死んでしまった

犀星が死に
コクトーが死に
達治に続いて
春夫まで
  (中略)
ただひとりだけまだ残る
ただひとりだけ
大事にしようこの友を
この わが友
大學という名の友を
  (後略)
(堀口大學『月かげの虹』,筑摩書房,1971年)
友を喪った悲しみと。
詩人の生命と。
己への激励と。

様々な思いが交錯して、
詩は読まれ続けて、
多田武彦の音楽に昇華されて、
人々の心に生き続けていく。

いろんな味わい方が
あっていいと思う。
きっとそれが
詩人と作曲家の
願いだと思うから。

父の十一回忌の日に
つらつらと思いを
書き連ねました。