組曲の3曲目「早春」の記事から
だいぶ間があいてしまったが

津村信夫『父のいる庭』の中の「早春のこと」

さて、終曲である。
筆者にとっては、思い出深いこの曲。

1998年に『三崎のうた・第二』を
とある東京の男声合唱団で
歌ってから、しばらく多田武彦の曲から
遠ざかっていた。

そんな折、故郷の埼玉で
とある男声合唱団の
立ち上げに関わることになり、
久しぶりに歌った多田武彦の歌が
この「紀の国」である。
そんな思い出の曲。

「紀の国」
   津村信夫

「紀の國ぞ
はや 湊につきたり」
舟のをぢ
かたみに呼びかひ
うつとりと
眸疲れて
父に手をひかれし心地

犬の先曳く車もあれば
海の邊に
柑子の實光りて
その枝のたわゝなる下
かいくゞり
かいくゞりてゆく

「紀の國ぞ
あらぶる海の國ぞ
汝が父の生まれし處ぞ」

父逝いて
今日の日も想ふ
幼児の吾兒を抱きて
そが小さき者の
夢にも通へ
あらぶる海の國は
我がためには父の國
汝がためには祖父の國
そが人の御墓かざる
ゆづり葉のみどりの國ぞと
『父のいる庭』(臼井書房、1942)

いづれの御時にか
国の名前を漢字2文字に統一する、という
法律ができたような。
妻「諸国郡郷名著好字令だよ。元明天皇で713年。」

そうだ、妻の声だ。
はっきり、覚えている。

妻「同じ屋根の下に生息しとるわ!」

回りくどい言い方になってしまったが
歌ってみると一目瞭然。
「紀の国」は「♪紀伊の国」なのである。

うっとりと
まるで「弱法師」の足取りのような
ベース系のメロディーに聞き惚れて、
何回も「♪犬の先引く~」がオチて
指揮者に怒られたっけ。
だって、まるで「夢の中の出来事」
みたいだしなあ。

鏑矢のようなテナーソロが
突っ込んでくるまで。

「紀の國ぞ
あらぶる海の國ぞ」

そこからの展開は、
まさに夢の中の出来事?
邯鄲の夢?
うたかたの夢?

遠のく意識の中で
また鏑矢のような
テナーソロが突っ込んでくる。

「紀の國ぞ
あらぶる海の國ぞ」

名曲です。
ほんに、ほんに。

おわり。


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