「みまかれる美しきひとに」
   立原道造

まなかひに幾たびか
立ちもとほつたかげは
うつし世に まぼろしとなつて
忘れられた
見知らぬ土地に 
林檎の花のにほふ頃
見おぼえのない 
とほい星夜の星空の下で、

その空に夏と春の交代が
慌しくはなかつたか。
――嘗てあなたのほほゑみは
  僕のためにはなかつた
――あなたの聲は
  僕のためにはひびかなかつた、
あなたのしづかな病と死は
夢のうちの歌のやうだ

こよひ湧くこの悲哀に灯をいれて
うちしほれた乏しい薔薇をささげ
あなたのために
傷ついた月のひかりといつしよに
これは僕の通夜だ

おそらく(は)あなたの記憶に
何のしるしも持たなかつた
そしてまたこのかなしみさへ
ゆるされてはゐない者の――
《林檎みどりに結ぶ樹の下に
 おもかげはとはに眠るべし》
(「優しき歌」1947年/角川書店
 【国立国会図書館デジタルコレクション】より)

・・。何回聴いても
歌っても、名曲だ。

拙ブログでも一度取り上げた
ことがある。


《林檎みどりに結ぶ樹の下に
 おもかげはとはに眠るべし》
最後のフレーズ。
これを味わうヒントが
こちら。

国立国会図書館デジタルコレクション
「立原道造」で検索。
http://dl.ndl.go.jp/

(テオドル・シュトルム翻訳短編集
「林檎みのる頃」山本文庫/1936年)
を発見。

一般公開されているので
誰でも貴重な文献に
触れることができます。

同上コレクションでは
立原道造「優しき歌」
角川書店/1947年
も見ることができます。
多田武彦作曲「優しき歌」
に触れる機会があれば
ぜひご一読を。

表紙を見たら
立原道造の
世界観に「納得」!?

迫力ある~。
現物には接することが
不可能なだけに。

しかし
立原道造の作品は
みんな装丁が
華麗である。
文体だけでなく
視覚的にも
こだわりのあった
建築家立原道造の
想いがしのばれる。

おわり。


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