知人の出演するコンサートで
三好達治『達治と濤聲』を
鑑賞する機会を得た。
筆者は
初演を生で聴いて
感動したものの一人であったが。
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第64回東西四大学合唱連盟合唱演奏会
於 すみだトリフォニーホール)
合同ステージ(指揮:山脇卓也氏)
初演年月日:2015年6月28日
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学生の皆さんの熱演は素晴らしかった。
拙ブログでもそのことを書いている。


 また、今回のコンサートでの同曲集での
年輪を重ねた人生の先輩方の「達治と濤聲」も
胸にグッとくるものがあった。
そこで今回は
別の角度から。

「荒天薄暮」
      三好達治

天荒れて日暮れ
沖に扁舟を見ず
餘光散じ消え
かの姿貧しき燈臺に
淡紅の瞳かなしく點じたり
晩鴉波にひくく
みな聲なく飛び
あわただしく羽うちいそぐ
さは何に逐はるるものぞ
慘たる薄暮の遠景に
されどなほ塒あるものは幸なるかな
天また昏く
雲また疾し
彼方町の家並は窓をとぢ
煤煙の風に飛ぶだになし
長橋むなしく架し
車馬影絶え
松並木遠く煙れり
――景や寂寞を極めたるかな
帆檣半ば折れ
舷赤く錆びたるは何の船ならむ
錨重く河口に投じ
折ふりしにものうき機關の叫びを放てり
まことにこれ戰ひやぶれし國のはて
波浪突堤を沒し
飛沫しきりに白く揚れども
四邊に人語を聞かず
ただ離々として艸枯れて
砂にわななきわれひとりここに杖を揮ひ
悲歌し感傷をほしいままにす
(『故郷の花』/大阪創元社/1946年)

この曲、詩を聞くたびに
セットで味わいたいのが
多田武彦作曲の
男声合唱組曲『鳥の歌』の5曲目である。

「鳶なく
――『故鄕の花』序に代へて 」
      三好達治

日暮におそく
時雨うつ窓はや暗きに
何のこころか
半霄に鳶啼く
その聲するどく
しはがれ
三度かなしげに啼きて盤桓す
波浪いよいよ聲たかく
一日すでに暮れたり
ああ地上は安息のかげふかく昏きに
ひとり羽うち叫ぶこゑ
わが屋上を遠く飛び去るを聽く
(『故郷の花』/大阪創元社/1946年)

この2つの詩は
同じ詩集に収められている。

・・・言葉にならないので、過日三国に旅した時の写真で
雰囲気だけでも感じていただければと。
三国の風景1
三国の海岸には「荒天薄暮」の大変立派な句碑が立っている。
その句碑から見た三国海の風景。
2015年秋でさえ、なんとなく寂しい風景。
敗戦後、失意のうちに達治が見ていた風景は
いかにすさまじきものだったは想像を絶する。
このような中でよまれた詩たちだったのか。
三国の風景2
この「荒天薄暮」から少し分け入ったところにある
三好達治の墓。
ここまでくると海岸沿いの遊歩道とはいえ
人影もまばら。
その場所から見た三国の海の風景。
「海の遠くに島が・・・」みたいに
感じられるかも。
「空には階段が」あったかもなあ。
なんて想いに耽ったり。
三国の風景3
「春の岬」
春の岬旅のをはりの鷗どり
浮きつつ遠くなりにけるかも 

(『測量船』/第一書房/1930年)

三好達治の旅は終わらない。
私の旅も終わらない。
ずっと旅の途中かもしれない。
それがいい。
それていい。

おわり。
 
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