『万葉の人びと』
犬養孝
(新潮文庫/1981年)

誰もが知っている
万葉集の歌について
わかりやすく、
解説したNHKの放送の
原稿をもとにした本。

おお、そんな風景や情が
隠れていたのか。と
目から鱗の本であった。

で、再度
まっさらな気持ちで
よみなおしてみる。

「雪はふる」
   三好達治

海にもゆかな
野にゆかな
かへるべもなき身となりぬ
すぎこし方なかへりみそ
わが肩の上に雪はふる
雪はふる
かかるよき日をいつよりか
われの死ぬ日と願ひてし 
(『砂の砦』臼井書房/1946年)

詩人の
初めの視界は広大な海。
次の視界は野。
そしてズームインして
わが身まで一気にカメラが寄る。

ここまででわずか3行。
見事である。
 
そして
わが身に湧き起った
回想の部分、概念的な部分。
いわば過去のことが2行。
さらに 
現在確かに起こっている
雪はふる」へと
意識の転換。

雪はふる
雪はふる

と繰り返し、
雪の強さを語るが、
それは
雪が北国、三国の人々
にとっては当たり前の風景。

三国からいづれかは
また旅立ってしまう、
という運命のわが身。

三好達治は旅人だからこそ
雪にそんな思いを込めて
よんだのではないか。

少女漫画の作法では
A「泣いているの?
  肩が震えてるけど。」
B「いや、雨(雪)が
  降ってきただけだよ。」

なんていう描写も
よくあることだ。

また、この詩のイメージを
強く印象付けている
導入2行。

海にもゆかな
野にゆかな

UMINIMO YUKANA
NONI    YUKANA

の母音は、
明るい母音ではないが
連綿とした、憂うつな、
しかし荘重な感じで
万葉集では
使われるとのこと。
 
神の前の儀式の
荘重な言葉として
祝詞にも
よく使われるとのこと。
そのため、
この2行そのものが
すでに音楽的なリズムを
持っているように感じる。

たしかなことは
雪はふる
ということだけだ。

おお、また違った視点で
多田武彦の歌が
歌えそうな気がしてきた。

おわり。

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