「鳶なく」
   三好達治

日暮におそく
時雨うつ窓はや暗きに
何のこころか
半霄に鳶啼く
その聲するどく
しはがれ
三度かなしげに啼きて盤桓す
波浪いよいよ聲たかく
一日すでに暮れたり
ああ地上は安息のかげふかく昏きに
ひとり羽うち叫ぶこゑ
わが屋上を遠く飛び去るを聽く
(『故郷の花』大阪創元社、1946年)

この詩集の最初にあるのが

人はいさこころもしらすふるさとは花そ
むかしの香ににほひける  つらゆき

である。
この詩集の最初を飾るのが
この「鳶なく」。
副題は
 ――『故鄕の花』序に代へて
である。

すみません、言葉が出ないよ。

鳶は冬の季語。
岩波文庫版三好達治詩集、
多田武彦データベースでは「とび」
新潮文庫版三好達治詩集では
「とんび」
となっていました。
リズム的には「とんび」
のような気がしますが。
でも、5音だと「ベタ」だしなあ。
曲も「とび、なく」で
ぴったりはまっていたし。

「三度かなしげに
 啼きて盤桓(ばんかん)す。」
という詩がこの詩集の中で
一番好きなところ。
「盤桓(ばんかん)す:とは、
うろうろと歩き回る、徘徊するさま
とのこと。
バリトンソロもコーラスも
詩に寄り添って、様々な表情をみせて
哀しく、哀しく、ただ哀しく。

この1946年に発表された「鳶なく」。

何のこころか
半霄(はんしょう)に鳶啼く

半霄(はんしょう)とは
中くらいの空、中空とのこと。

この曲集の1曲目「揚げ雲雀」で
歌っていたように(『閒花集』934年)
あんなに高く飛べなくなった。
ということもあるかな。

哀しすぎて。

おわり。

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