所属する男声合唱団の演奏会で
さだまさし「案山子」を
歌う機会に恵まれた。


「案山子」

   さだまさし

元気でいるか 街には慣れたか
友達できたか
寂しかないか お金はあるか
今度いつ帰る

城跡から見下ろせば 蒼く細い河
橋のたもとに
造り酒屋のレンガ煙突
この街を綿菓子に 染め抜いた雪が
消えればお前が ここから出て
初めての春

手紙が無理なら 電話でもいい
金頼むの 一言でもいい
お前の笑顔を 待ちわびる
お袋に聴かせてやってくれ

元気でいるか 街には慣れたか
友達できたか
寂しかないか お金はあるか
今度いつ帰る

山の麓煙はいて 列車が走る
木枯しが雑木林を 転げ落ちてくる
銀色の毛布つけた 田圃にぽつり
置き去られて 雪をかぶった
案山子がひとり

お前も都会の 雪景色の中で
ちょうどあの案山子の様に
寂しい思い してはいないか
体をこわしてはいないか

手紙が無理なら 電話でもいい
金頼むの 一言でもいい
お前の笑顔を 待ちわびる
お袋に聴かせてやってくれ

元気でいるか 街には慣れたか
友達できたか
寂しかないか お金はあるか
今度いつ帰る
寂しかないか お金はあるか
今度いつ帰る

(作詞:作曲:さだまさし/1977年11月)


さだまさしの代表曲のひとつと
いってもよい歌である。
故郷を離れて都会で奮闘する弟を
故郷から思い遣る兄の視点の歌。
名曲だった。とてもいい演奏ができた。


ところで、
この「案山子」の11年後に発表された
同じさだまさしの歌で、
その故郷を離れて奮闘する弟からの
故郷でまつ家族へ向けた
返歌というべき歌がある。


「初雪の頃」
   さだまさし

初雪の頃 郷里を離れて
あれから二つほど
季節が過ぎました
元気ですか
こちらは無事に生きてます
駅を出る時 紙袋には 
はちきれんばかりの
野心や夢や希望詰め込んで
恥ずかしい位 気負ってました

都会はひとが言う程に 
怖い処だと思わない
ただ 時々電車の窓に写る
疲れた自分に驚いて
案外 都会の魔物の正体は
きっとそんなものです

忙しごっこで
なかなか休みも言い出しにくくって
帰れないでいます
そうだありがとう 
昨日小包が着きました
 
友達がみな 優しすぎから
時折自分がふと
相手にされてないって気がしたり 
勿論甘えだと解っています

実は一度だけ 自分に疲れて 
あの改札口まで
帰ったことがあるけれど
その日 忘れ雪にひきとめられて

辛いことは書きません
みんな過ぎゆくことですから
ただ時々具合の悪い時に
すこし不安になるくらい
毎日魔物を笑わせる為に
元気出しています

そういう訳です
少しは自信もついて来ましたから
必ず胸を張って帰ります
きっと初雪の降る前に
そう初雪の降る前に

(作詞:作曲:さだまさし/1988年7月)
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歌詞の掲載については、
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http://www.jasrac.or.jp/info/network/ugc.html
をご参照ください。当ブログのはライブドアブログですので
了承されたとみなします。
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たとえ故郷を遠く離れていても
同じ時間を過ごしていたら
同じ降る雪を見つめている
かもしれない。
これもまた名曲。


同じように雪が降る中での
独り歩きだが
どこかで想いが通じあって
いたのかなと想像されるのが
多田武彦男声合唱組曲『東京景物詩』
の中にあるこの曲である。


「夜ふる雪」
   北原白秋

蛇目の傘にふる雪は
むらさきうすくふりしきる。

空を仰げば松の葉に
忍びがへしにふりしきる。


酒に酔うたる足もとの
薄い光にふりしきる。


拍子木をうつはね幕の
遠いこころにふりしきる。


思ひなしかは知らねども
見えぬあなたもふりしきる。


河岸の夜ふけにふる雪は
蛇目の傘にふりしきる。


水の面にその陰影に
むらさき薄くふりしきる。


酒に酔うたる足もとの
弱い涙にふりしきる。


声もせぬ夜のくらやみを
ひとり通ればふりしきる。


思ひなしかはしらねども
こころ細かにふりしきる。


蛇目の傘にふる雪は
むらさき薄くふりしきる。

(『東京景物詩及其他』
 /東雲堂書店/1913年)


降る→経る。
・・空を仰げば松の葉に
松→待つ
・・・声もせぬ夜の暗闇を
夜→世
と掛詞でも読めます。


雪が降れば降るほど、
今一緒にいないあの方が
恋しくて仕方がない。
でもどこかで同じ雪を
観てるだろうか。
こんなにどうにもならない
浮世だけれども・・・。

ああ、こんな男の
そこはかとない色気が
なかなか出せなんで。


百人一首でも
雪が降る風景に
一緒にいない大切な人への
恋心を表したものもあります。


君がため 春の野に出でて
若菜摘む
わが衣手に 雪は降りつつ
        光孝天皇


降る雪自体は
形がないようで、
しづかだが「動」。

積もって初めて「静」。

そこで積もられた存在の
大きさがクローズアップされる。
想いが形でみえる。


嗚呼、
次に歌うときは
また違った気持ちで
歌えると思うと
なんだかワクワクする。


おわり。

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