大学の男声合唱団の中で、
間違いなく名実ともに
トップクラスの団体がある。


慶應義塾ワグネル・ソサイエティ
男声合唱団である。

その伝説の指揮者であり
音楽家であられた
畑中良輔先生の話。


筆者の手元に
東芝EMIの
合唱名曲コレクション
『柳河風俗詩』

というCDがある。

収録曲は以下の通り。
『柳河風俗詩』
『草野心平の詩から』
『中勘助の詩から』
(以上慶應ワグネル)

『中原中也の詩から』
アンコール「雨」
(以上立教大学グリークラブ)

・・・収録曲は
どれも素晴らしい。
もともとの録音は
全て1980年代とのこと。

中でも、
『草野心平の詩から』
筆者はお気に入りである。

CDのライナーノーツに
作曲者である多田武彦が
「作曲者のことば」を
寄せられている。
その中で、
初演時のパンフレットの
解説に畑中良輔先生が
「すぎしものへ」
と題して書かれた
内容について
触れられている。

詳しくは大人の事情で
書けないが、
中國へ出征したときの
貨車から見た風景が、
「石家荘にて」を
慶應ワグネルの合宿で
振ったときに
急に思い出されて、
魂が揺さぶられる
体験をした。
という内容だった。

とても有名な内容らしく
あちこちのCDやLPや
演奏会でみかける。

もう二度と
繰り返すはずのなかった
体験がフラッシュバック
する、という激しい感情が
この録音にも
込められていて
もっと詳しい話を
知りたくなった。

そこで、
その風景を知る
ひとつの参考になる
本の紹介。

畑中良輔先生が
『音楽の友』誌での
連載をまとめた自伝。

『音楽少年誕生物語
繰り返せない旅だから・1』
(音楽之友社/2002年2月)


『音楽青年誕生物語
繰り返せない旅だから・2』
(音楽之友社/2004年8月)

『オペラ歌手誕生物語

繰り返せない旅だから・3』
 (音楽之友社/2007年2月)

『オペラ歌手奮闘物語

繰り返せない旅だから・4』
(音楽之友社/2009年9月)


全4作。

一人の人間の旅が
音楽を通して様々な出来事に
直面し、展開される。
「石家荘にて」の場面も
ライナーノーツとは違った
描写で登場する。

これを読破すれば、
『草野心平の詩から』の
音楽の作り方も、
すこし合点がいくかも。

まだまだ上るべき山は
高いが。

まだ余力がある方におすすめ。
同じ作者のエッセイ。

『荻窪ラプソディー
 ブル先生の 日々是好日』

(音楽の友社/2012年7月)

・・・そうとうに身体は

しんどかったはずだが、
その中でもウィットを忘れない
一人の人間による名随筆。

一人の人間として
音楽家として
繰り返せない旅を生きたという
人生の先達に学んだ本たちであった。


人に歴史あり。


おわり。

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